開咬治療例2(唇側矯正装置、抜歯)
初診時口腔内写真
開咬、下顎前突、叢生の合併症です。
左右の大臼歯関係に左右差があるため、上下顎の正中も一致していません。このため下顎左側第一小臼歯の1本を抜歯することにしました。
矯正治療において左右非対称な抜歯部位を選択することはあまりありませんので比較的稀な症例です。
開咬や下顎前突症の治療を行う際に、治療の初期段階で開咬、および下顎前突の症状が悪化したように見える傾向があります。これは多くの下顎前突において上顎前歯が唇側傾斜、下顎前歯が舌側傾斜している(デンタルコンペンセイションといいます)ことが原因です。治療を開始すると一時的に舌側傾斜している下顎前歯が唇側傾斜することで治療前よりも下顎前歯が突出し、また、上下顎前歯の垂直的な隙間も増大することになります。あくまで一時的なものなので心配する必要はないのですがやはり気にされる患者様は多いです。
治療途中口腔内写真
(治療開始16ヵ月後)
ちょっと変わったワイヤーが装着されています。マルチループとかMEAWなどどよばれます。L字型のループをブラケット間に配置することで、ラーメン鉢の模様に似ているのでラーメンワイヤーなんて呼ばれることもあります。頻繁に使用するワイヤーではありませんが開咬の治療、とりわけ非抜歯で開咬の治療を行う際に利用することがあります。このワイヤーは顎間ゴムと併用することで初めて効果を発揮します。顎間ゴムは一番前の上下Lループ間に使用することが多いです。顎間ゴムを使用しないと症状が改善するどころか開咬が悪化してしまうので注意が必要です。
このワイヤーの難点は屈曲が難しいことと、歯磨きが難しくなることです。口腔内で曲げられなくもないのですが診療時間内に屈曲するのは時間的に少々厳しいので通常は歯列模型を作製して模型上で屈曲してから患者様に装着することになります。私は外注したことが無いのですが、歯科技工所の製品カタログに掲載されていることもありますので外注する矯正歯科医もいるのだと思います。もう一方の歯磨きの難しさは患者様に頑張って頂くしかないというのが正直なところです。
治療終了時口腔内写真
(治療開始24ヵ月後)
治療期間は24ヶ月でした。
治療の目安
- 主訴
- 前歯で物を噛めない、受け口、歯のデコボコ
- 診断名
- 開咬、下顎前突、叢生
- 年齢
- 32歳 女性
- 治療に用いた主な装置
- 唇側矯正装置
- 抜歯部位
- 下顎左側第一小臼歯
- 治療期間
- 24ヶ月 / 月に約1回の通院
- 治療費
- 約850,000円(税込)
- リスクと副作用
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- マルチループでの治療中は特に歯みがきしにくい箇所ができるため、虫歯や歯周病のリスクが高くなります。念入りな歯みがきを心掛けてくださいますようお願いいたします。
- 初めて矯正装置を装着した時や調整した後は、疼痛や圧迫感などを感じることがあります。
- 歯並びを整え、咬み合わせを改善するために、やむを得ず健康な歯を抜くことがあります。
- 歯を動かす際に、歯根吸収や歯肉退縮が起こることがあります。
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