上顎前突治療例8(カスタムメイド型リンガルブラケット矯正装置「インコグニト」)
症状および治療方針
主訴は歯の凸凹と出っ歯、それに付随して歯磨きが難しく虫歯が増えるのが心配とのことでした。
本症例は出っ歯ではありますが、上顎骨と下顎骨の相対的な前後関係は標準的です。それなのになぜ出っ歯になっているかというと、上顎の凸凹に比べて下顎の凸凹が顕著であるために下顎前歯が舌側に位置しているのです。仮に下顎を非抜歯で配列したとすると上顎前歯の位置に下顎前歯が位置することになりますから本症例の本質は上下顎前突と捉えることもできるのです。
治療方針は上顎は前歯部後方移動のため、下顎は叢生改善のために両側の第一小臼歯を抜歯することにしました。また、口蓋正中に歯科矯正用アンカースクリューを2本植立して前歯部後退の際の固定源とします。
治療
使用装置は上下顎ともにカスタムメイド型リンガルブラケット矯正装置「インコグニト」です。インコグニトブラケットは患者様の歯や歯列の形態に合わせてブラケットとワイヤーが製作される当院で現在メインで使用している装置です。
元々ドイツで開発された装置ということもあって欧州では舌側矯正装置のなかで大きなシェアを占めています。日本でも急速にシェアを伸ばしてきているようで、日本の材料メーカーの担当者が「自社製品が売れない」とぼやいていました。技術的には日本メーカーが手掛けられないわけがないと思うのですが特許の問題でもあるのかもしれません。
治療中の口腔内写真は口蓋の正中に2本のアンカースクリューを植立し、そこに牽引用のフックを装着して上顎前歯を一塊として後方移動しているところです。
治療期間は1年9か月でした。
治療の目安
- 主訴
- 歯の凸凹と出っ歯
- 診断名
- 上顎前突
- 年齢
- 24歳 女性
- 治療に用いた主な装置
- カスタムメイド型リンガルブラケット矯正装置(インコグニト)、歯科矯正用アンカースクリュー
- 抜歯部位
- 左右側の第一小臼歯
- 治療期間
- 1年9か月 / 月に約1回の通院
- 治療費
- 約1,320,000円(税込)
- リスクと副作用
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- 治療中は歯みがきしにくい箇所ができるため、虫歯や歯周病のリスクが高くなるので、念入りな歯みがきが必要になります。
- 初めて矯正装置を装着した時や調整した後は、疼痛や圧迫感などを感じることがあります。
- 歯並びを整え、咬み合わせを改善するために、やむを得ず健康な歯を抜くことがあります。
- 歯を動かす際に、歯根吸収や歯肉退縮が起こることがあります。
【カスタムメイド型リンガルブラケット矯正装置「インコグニト」について】
- リンガルブラケット矯正装置「インコグニト」は、日本国内では医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けていない未承認の医療機器です。材料については日本の薬事認証を得ております。
- ドイツ3M社の製品の商標であり、3M 社から入手しています。
- 日本国内において医薬品医療機器等法(薬機法)の承認を受けている同様の医療機器は存在します。
- 世界の 90 か国以上で採用され、ヨーロッパでのシェアは 60%以上です(2019 年時点)。これらの国において、重篤な副作用の報告はありません。
- 日本では完成物薬機法未承認の矯正歯科装置であり、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。
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