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歯科レントゲン撮影による被ばくが心配です
患者様からのご質問
最近矯正を始めようと思い立ちまして何件か矯正歯科を尋ねてみました。矯正相談の初診でレントゲンを撮るクリニックも複数あったのですが短期間のうちに何回もレントゲンを撮っても大丈夫なのでしょうか?レントゲンの被ばくが心配です。ちなみに妊娠はしていません。
アクイユ矯正歯科でも撮りますか? 虫歯を治すために普通の歯医者さんにも行き、そこでも撮られました。3ヶ月以内にもう5回は撮っています。今年は大学病院で頭部全体をCT撮影もしています。これは歯医者さんにある小型の機械ではなく仰向けになってリング状の中に入る巨大な機械でした。一度お医者様に聞いたことがあるのですが 「ダイジョブダイジョブ」というように簡単に流されるだけでした。たくさんレントゲンを撮るとどのようなリスクが考えられるのでしょうか?
当院からのお返事
当院では問診票にレントゲン撮影を希望するか否かのチェック欄があります。そこにチェックがある患者様に対してはレントゲン撮影(パノラマ)を行いますし、希望されない患者様に対しては口腔内の視診から判断できる内容で初診相談を行っております。
レントゲン撮影による被ばくについて
被ばくの影響は1・確定的影響と2・確率的影響に分類されます。確定的影響は核爆弾や原発事故などで極めて強い放射線に晒された場合に引き起こされる皮膚損傷、骨髄死などですが、医療用のレントゲン撮影による微量の放射線量では絶対に引き起こされません。医療用のレントゲン撮影に関係があるのは確率的影響のほうです。確率的影響とは放射線がDNA損傷を引き起こすことによって生じる「発がん」リスクの増加です。これはどんなに少ない放射線量でも確率は高まります。
人間が被ばくする放射線には自然放射線と人工放射線の2種類があります。
自然放射線とは自然界に元々存在している放射線のことで、宇宙線や大気中、食物中に含まれる放射線を指します。これは避けたくても避けられない放射線です。
人工放射線とは医療用の放射線(レントゲン撮影や放射線治療)の他、原子力発電所の近隣に住んでいる場合の被ばく、飛行機に乗った場合の宇宙線の増加による被ばくなどがあります。
日本人の自然放射線量は年間1.5mSv(マイクロシーベルト)です。なお、地域によって自然放射線量の多い地域もあるため世界平均では2.4mSv、最も自然放射線量の多い地域では20mSvを超えます(イラン・ラームサル、インド・ケーララ州など)。
医科用のCT撮影では5~30mSv(部位により異なる)、歯科用のCT撮影は0.1mSv、パノラマ撮影0.03mSvです。
なお、東京~ニューヨーク間を飛行機で往復すると高度により宇宙線が増加するため0.19mSvの被ばく線量だそうです。
気になるのは自然放射線を除いてどの程度の被ばくなら安全なのか?ということですよね。ただ、残念ながら「絶対に安全」な放射線量は存在しません。どんな少ない放射線量であっても発がんのリスクは上昇するからです。
ただ、そんなことを言っていたら飛行機に乗ることもできませんし、それこそ今の日本には住むことができないということになってしまいます(福島原発事故による人工放射線量の増加がどれ程なのかについてはわかりませんが事故前よりも増加していることは確かでしょう)。そこで、世界的にどのような指針があるのかを考えてみます。
国際放射線防護委員会は職業人(原子力発電所の職員や放射線技師など)に対する年間線量限度を20mSv、一般人においては年間1mSv以下に留めるべきだと勧告しています。線量限度とは自然放射線と医療行為から受ける線量を除いた被ばく線量です。ちなみに福島原発事故の際は原発作業員の年間線量限度100mSv、子供の年間線量限度が20mSvだそうです(非常時とはいえ各方面から批判されていました)。
医療行為から受ける放射線量はそれを上回る利益を患者様が享受できると考えられていることから線量限度から除外されているのですが、それではご質問者様の疑問にお答えしていることになりませんから一般人に推奨されている年間線量限度1mSvの中に医療用の放射線量を含めて歯科のレントゲン撮影を考えてみましょう。
パノラマ撮影1枚が0.03mSvですから年間33枚撮影すると1mSvになります。3カ月で5枚ということであれば0.15mSvの被ばく線量ということになります。医科でのCT撮影は部位や撮影方法によりかなり差があるようなのでわかりません。この数値をどう考えるかは人それぞれだと思いますが、少なくともご質問者様の歯科医院での被ばく線量は東京~ニューヨーク間を飛行機で往復(0.19mSv)するよりは少ないことは確かです。
防護エプロンについて
歯科のレントゲン撮影の放射線量はそれほど多くはないのであまり過度に心配する必要はないのですが、撮影を必要最小限に留めることと、不必要な被ばくを防護することは必要です。そのために歯科では患者様には防護エプロンを着用していただくのが一般的です。
ところで歯科では一般的な防護エプロンですが、医科では着用した記憶がありません。年に1回人間ドックを行っているのですが、そのときに撮影する胸部レントゲンで防護エプロンを着用したことがないのです(胸部を撮影するわけですから、着用するとしたら頭部と下半身を防護するタイプのものになるのでしょうが)。
実はこれにも根拠はあって「あんまり意味がない」からだそうです。 医療用のレントゲン装置の放射線は人体の限られた部位(歯科だと口腔、胸部レントゲンなら胸部)に照射されます。防護エプロンで防護しているのはX線照射による散乱線のみです(主たる放射線を防護したら撮影になりませんから当然ですが)。
この散乱線、照射された放射線量の1/30程度だそうです。胸部レントゲン撮影は0.05mSvですから0.05×1/30=0.0017mSv、これくらいなら防護エプロンは必要ないんじゃない?ということのようです( ちなみに防護エプロンの遮蔽率は95%前後ですので着用すれば大凡0.0016mSvを防護できる計算です)。
確かにここまでくると日本人の1日当たりの自然放射線量(1.5mSv×1/365=0.004mSv)以下ですから着用が必要ないと判断するのも理解はできますが気分的には着用したいですよね。なんかレントゲン室ってものすごく濃密な放射線が充満しているイメージがありますし。最後は医療従事者らしからぬ一文で〆といたします。
*このページは実際に患者様からメールで頂いたご質問に対する当院のお返事を中心に記載しております。そのため、患者様からの質問内容については年齢、性別、文章の特徴等、Q&A形式で考えて問題ない範囲でデフォルメして記載しております。また、内容的にも理解が得られやすいよう適宜解説を追加・改変して記載しておりますので実際の遣り取りとはかなり異なることがございますのでご了承ください。