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アダムスクラスプについて
アダムスクラスプは床矯正装置を口腔内に保持するための鉤の一種。鉤とは英語で言えばフックというような意味です。 床矯正装置によく使われる鉤はアダムスクラスプ、Cクラスプ、ボールクラスプでしょうか。クラスプ自体が歯を動かす働きをするのではないので「口腔内に矯正装置を維持できるのであればアダムスクラスプ、Cクラスプ、ボールクラスプのどれでも構わない」ともいえます。
このアダムスクラスプ、私にとってはとっても印象深いクラスプでもあります。というのも、学生時代、小児歯科のテストの必出問題だったのです。毎年出るという噂で案の定私の試験にも出題されました。今思えば「そんなに重要かな~?これ」って思うんですけど。 一般的には以下のように考えられているようです。 《利点》 ・使用しやすく維持が良い ・変形を起こしにくい ・歯に接する面がわずかで清潔 ・孤立歯や萌出と乳歯に使用できる ・付加装置をつける事ができる 《欠点》 ・製作方法がやや複雑 ・クラスプ自体のボリュ-ムがあるため異物感を生じる
私の学生時代は「清掃性が高い」「維持力が強い」がメリットで「屈曲がやや複雑」がデメリットと教わりました。
今の私の意見としては
《利点 》
維持がCクラスプやボールクラスプに比較して良い
《欠点》
ワイヤーが細く、破断が頻繁に起こる 歯冠の近遠心両方をワイヤーが通過するので咬合干渉を引き起こしやすい(=破折しやすい原因でもあります)
というところでしょうか。むしろ大学で学んだことには疑問点を感じることも多いです。
清掃性が高い→そもそも床矯正装置は着脱可能であり清掃性が問題になることがほとんどない。装置を付けたまま歯を磨く指示もしませんし。経験上も着脱可能な矯正装置のクラスプが原因の虫歯は見たことがない。つまり、こじつけに近い利点であって臨床上、他のクラスプに勝る点として特記するのは無理がある 気がします。
変形を起こしにくい→全く逆。製造方法が複雑なことと変形を起こしにくいことは普通に考えれば矛盾しているのは明らか。アダムスクラスプは他のクラスプに比較して容易に変形するし破折もする。理由はそもそも使用しているワイヤーが0.7mmであることが多く、0.8や0.9mmを使用するCクラスプやボールクラスプに比べて細い。細い理由は屈曲が複雑なので太いワイヤーでは屈曲が困難なことと、近遠心の咬合隣接面を通すのでワイヤーが太いと咬合干渉を引き起こすことによる。
付加装置を付けることができる→付けることは可能だが、付加装置をろう着(or溶接)する際にワイヤーが焼き鈍る可能性が高く、その場合には最も重要な維持機能が損なわれてしまう。そもそもアダムスクラスプに付加装置を付けてまで何かをするのなら別の装置を考えた方が良い。
と、誰しも経験することだと思いますが現場と机上の理論は違うな~とつくづく感じさせてくれるのが私にとってのアダムスクラスプです。他はここまでのことはないんですけどね。アダムスクラスプを作る度に「あの授業はなんだったんだろ??」って思い出すのです。