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保険適用の矯正治療(外科矯正)
顎変形症、唇顎口蓋裂などの先天疾患に付随する不正咬合には健康保険が適用されます
一般的な症状に対する矯正治療は保険診療の対象になりませんが、(顎の離断を必要とする)顎変形症と厚生労働大臣が定める以下の疾患に付随する不正咬合の矯正治療は保険診療の対象となります。当院では以下の症状に対して健康保険の適用が可能です(指定自立支援医療機関(育成医療・更生医療)、歯科矯正診断施設基準・顎口腔機能診断施設基準適合施設)。
1・顎変形症(顎変形症と診断され、かつ顎離断等の手術を必要とするもの)の手術前・後の矯正歯科治療
顎変形症と診断されても患者様が顎離断手術を望まず、矯正治療単独で治療を行う場合には保険診療の対象となりません。あくまで顎離断手術を行うことが前提にあって、その前後の矯正治療が保険診療の対象となるからです
主な症状
顎が左右に歪んでいる、顎のしゃくれ、下顎が極端に小さい顔貌(鳥貌)、矯正治療単独では治療困難な重度の上顎前突症・下顎前突症 ・上下顎前突症・開咬症
顎離断手術とは
全身麻酔下において上顎骨あるいは下顎骨(上下顎骨両方のこともあります)を切断し、上顎骨と下顎骨の前後ないし左右的調和を図る手術です。1週間程度の入院を必要とします。
主要な顎離断術は以下の通りです
1)下顎枝矢状分割術
顎変形症の手術で最も適用範囲の広い手術です。下顎前突症に対しては下顎を後方移動、上顎前突に対しては下顎を前方移動、開咬症に対しては下顎を反時計回りに回転、顎の歪みに対しては下顎を左右に回転、などを行います。
2)ルフォーⅠ型骨切り術
主に上顎前突症の顎変形症に対して上顎骨の後方移動を目的として選択されます。また咬合平面の傾斜の改善を行うこともできますし、上顎骨を上方移動することでガミースマイルの改善などに寄与します。
3)上顎前歯部歯槽骨切り術
主に上顎前突症の顎変形症に対して上顎前歯部の後方移動を目的として選択されます。便宜抜歯を術中に行うため術前矯正期間が短いメリットもあります。
4)下顎前歯部歯槽骨切り術
主に下顎前突症の顎変形症に対して下顎前歯を後方移動する必要があるが、オトガイ部(顎)を後退させたくない症状で選択されます。
5)オトガイ形成術
この手術は咬み合わせの改善に直接的な役割を果たすわけではありませんが、顎の歪みや下顎の後退感・前突感、下顔面高の改善などに1)~4)の手術と併用することで審美性の向上に寄与します。
(当院は顎離断手術前後の矯正治療を担当します。顎離断手術、手術前後の入院加療は連携する口腔外科や形成外科を専門とする医師、歯科医師が担当し、顎離断手術も連携する医療機関にて施術されます。連携医療機関の例:防衛医科大学校病院の歯科口腔外科、西埼玉中央病院など)
顎変形症の治療の流れ
手術前矯正(当院)⇒顎離断手術および入院中、入院前後の加療(連携医療機関の口腔外科など)⇒手術後矯正(当院)
2・厚生労働大臣が定める以下の疾患に付随する歯列不正
唇顎口蓋裂、ゴールデンハー症候群(鰓弓異常症を含む)、鎖骨頭蓋骨異形成、トリーチャ・コリンズ症候群、ピエール・ロバン症候群、ダウン症候群、ラッセル・シルバー症候群、ターナー症候群、ベックウィズ・ウィーデマン症候群、顔面半側萎縮症、先天性ミオパチー、筋ジストロフィー、脊髄性筋委縮症、顔面半側肥大症、エリス・ヴァンクレベルド症候群、軟骨形成不全症、外胚葉異形成症、神経繊維腫症、基底細胞母斑症候群、ヌーナン症候群、マルファン症候群、プラダー・ウィリー症候群、顔面裂(横顔裂・斜顔裂・正中顔裂を含む)、大理石骨病、色素失調症、口腔・顔面・指趾症候群、メビウス症候群、歌舞伎症候群、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群、ウイリアムズ症候群、ビンダー症候群、スティックラー症候群、小舌症、頭蓋骨癒合症(クルーゾン症候群・尖頭合指症を含む)、骨形成不全症、フリーマン・シェルドン症候群、ルビンスタイン・ティビ症候群、染色体欠失症候群、ラーセン症候群、濃化異骨症、6歯以上の先天性部分無歯症、CHARGE症候群、マーシャル症候群、成長ホルモン分泌不全性低身長症、ポリエックス症候群(XXX症候群・XXXX症候群・XXXXX症候群を含む)、リング18症候群、リンパ管腫、全前脳胞症、クラインフェルター症候群、偽性低アルドステロン症、ソトス症候群、グリコサミノグリカン代謝障害(ムコ多糖症)、繊維性骨異形成症、スタージ・ウェーバー症候群、ケルビズム、偽性副甲状腺機能低下症、Ekman-Westborg-Julin症候群、常染色体重複症候群、巨大静脈奇形(頸部口腔咽頭びまん性病変)、毛髪・鼻・指節症候群(Tricho-Rhino-Phalangeal症候群)、その他顎・口腔の先天異常(顎・口腔の奇形、変形をともなう先天性疾患)
3・前歯および小臼歯の永久歯のうち3歯以上の萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)
萌出不全とは何らかの治療を行わないと生えてこない歯のことです(埋伏歯)。
埋伏歯といっても前歯および小臼歯に限られますので親知らずの萌出不全などは該当しません。また、萌出不全歯のうち少なくとも1歯を埋伏歯開窓術により歯列内に配列することが必要で、埋伏歯を全て抜歯する、あるいは全て利用しない場合には保険適用になりませんのでご了承ください
健康保険の適応となる症状は上記の通りですが、実際に健康保険が適用される症状を有する患者様は矯正治療を希望される患者様のごく一部であることをご了承ください(おそらく全体の2%程度だと思われます)
ご自身の症状に健康保健の適用がなされるか否かについては実際に診察する必要がございますのでお問い合わせください
保険適用の矯正治療にかかる費用について
顎変形症の矯正治療においては自己負担の割合が3割の場合、総額で20~30万円程度です(別途、外科手術の治療費が同程度かかります)。その他の疾患に付随する歯列不正の矯正治療においては永久歯列期から治療を開始する場合には20~30万円程度ですが、小児期から治療を開始する場合には治療期間が長期に渡るため幾分多めにかかる可能性があります。