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抜歯について
抜歯について
歯列矯正を考えている患者様とお話していて感じるのは、矯正治療に関する知識が豊富である患者様は別にして治療に抜歯が必要であることにかなり驚かれる患者様が多いことです。
実はほとんどの患者様に対して歯を抜かずに歯並びを整えることは可能なのですが、実際には矯正治療を受ける患者様の半数以上が抜歯をして矯正治療を受けています。
「なぜ?」というご質問に以下、拙文ながら解説してみますが簡単にいうと「抜歯して治療した場合と抜歯しないで治療した場合とでは特に側貌という面において治療結果が違うから」です。
矯正治療は咀嚼機能と審美性を両立させた上で正常咬合を確立しなければなりません。歯列矯正は歯並びが変化するだけではなく、付随して口元を中心とした顔貌にまで変化が及びます。そのため、矯正治療の治療計画を立てる際には口腔内だけでなく顔貌の審美性も考慮に入れる必要があるのです。
ところで、凸凹している歯をきれいに配列するためにはどこかに並べるためのスペースを作る必要があります。3人がけの椅子に4人が座ろうとしている状況を想像して見てください。
どうしても4人座るための解決策は
- 4人にダイエットしてもらう
- 椅子をもう1つ用意する
- 3人に座ってもらい、1人は誰かの膝の上に座る
この3つから選択するより他ありません。
これを歯並びに置き換えると、歯を抜かずに矯正治療をする場合、以下の3つの内の最低1つをして凸凹を解消するスペースを確保しなければなりません。
- 歯を小さくする
- 顎を大きくする
- 小さな顎に大きな歯を並べる
それでは一つ一つ考えてみましょう。
(1)歯を小さくする
歯を削るという方法ですが、削りすぎれば痛みが生じますし歯の形態が変化するため審美的な側面から上の前歯ではあまり利用できません。下顎の前歯ならば最大で4mm前後のスペースを獲得できます。
ただ、4mmというのは歯列不正で矯正歯科を受診される患者様にとってはあまりに少ないスペースであることのほうが多いといえます。非常に凸凹が少ない場合にしか有効ではありません。
(2)顎を大きくする
顎を大きくする方向は前、横、後、の3方向です(左写真)。このうち、“骨格的な観点から顎を大きくする”という意味で有効なのは上顎の横方向のみです。上顎の真ん中には口蓋縫合という左右の上顎骨の継ぎ目があります。この縫合部は15,6歳まで癒合しません。また、上顎骨というのは頭蓋骨による支えがあることも有り、非常に惰弱というか薄くて柔らかい骨なのです。そこを人工的に骨折させるようにして拡げることが外科処置をしなくても可能です。
下顎にも左右の骨の継ぎ目はありますが、下顎の正中軟骨結合部は生後1年で石灰化し癒着してしまいます。また、下顎骨というのは頭蓋骨の支えがありませんから下顎骨自体が大変強靭にできています。正確には皮質骨が厚いということなのですが、下顎骨は外力から身を守るために進化の過程で上顎骨とは異なった性質を持つ骨となっているのです。そのため下顎骨は“骨格的に”拡げることは不可能です。矯正治療において「下顎を拡げる」とい言う場合の意味はあくまで歯槽骨内で歯列の幅径を拡げる、という意味です。
そのため本質的に「骨格的に顎を大きくする」という意味では、上顎が下顎に比較して極端に狭い症状で上顎骨を拡大する場合にしか有効ではありませんが、当てはまる症状ではとても有効な治療法です。
それ以外の拡大方向(上顎の前・後、下顎の前・横・後)は、外科的な処置を併用しない限り、これからお話する“小さな顎に大きな歯を並べる”の範疇に入ってきます。
(3)小さな顎に大きな歯を並べる
それでは、(3)小さな顎に大きな歯を並べることを考えてみましょう。
まずは前に歯を移動することでスペースを獲得したらどうなるでしょうか?これは一回り大きな弧を描くようなイメージで歯を並べることになります。
大きな弧になればなるほど(前歯を前に出せば出すほど)歯の配列スペースは増えますが、前歯はどんどん前に出てしまいます。極端に前に出せば、歯並びは良くなるでしょうが口が閉じにくくなったり、極端な場合ですと口が突出して顔貌に相当程度の悪影響がでてきます。写真は叢生の患者様にたいし、前方に歯を移動して抜歯をせずに矯正治療した場合と、左右の小臼歯2本を抜歯してそのスペースを利用して矯正治療した場合の予測模型です。抜歯をしない場合にはかなり前歯が突出するのがご理解いただけるかと思います。もっとも、もともと口元に突出感のない患者様であればこのような抜歯をしない治療が許容されることもあるでしょうし、この写真では必要な隙間をすべて前方に求めていますが、後方や側方に歯を移動することのできる症状であれば必ずしもこういう結果になるわけではありませんから、単純に凸凹がひどいという理由だけで抜歯の治療が望ましいと判断できるわけではありませんが、前方に歯を移動すると前歯が出てしまうことは避けられませんし、同時に口元も突出して、口が閉じにくくなることもあります。それでは困りますから、後方に歯を移動する方法はどうでしょうか?
その前に、皆さんは“親知らず”はきちんと生えているでしょうか?たまに親知らずと12歳臼歯を勘違いされている患者様もいらっしゃいますので一応ご説明しておきますと、前から数えて8番目の歯です。現代人においてはこの“親知らず”がきちんと生えて、なおかつきちんと咬合している事はあまり見かけません。多くは半分だけ生えてきて歯肉が腫れたから抜いてしまったとか、骨の中に埋もれたままだったりします。先天的に無い方もたくさんいらっしゃいますし、今後も人類の進化という長い単位の時間でみれば無くなる方向に進んでいるようです。
ではなぜ“親知らず”はきちんと生えてくれないのでしょうか?
実は後方の歯槽骨が足りないから親知らずが生えないのです。ですからそこに歯を動かすといっても限界があるのです。それではまとめです。
- 歯を小さくする・・
- わずかなスペースしか作れない。
- 凸凹が少ないときには効果的。
- 顎を大きくする・・
- 上あごの横方向のみ有効。
- 使える症例は限られる。
- 小さな顎に大きな歯を並べる・・
-
- 抜歯をしないで矯正する場合のスペースの獲得方法の多くはこの範疇に入る。
- メリット、デメリットをよく考えて治療法の選択をする。
- 凸凹が小さければデメリットが顕在化しないか、あってもわずか。
- 凸凹が大きければデメリットが顕在化してくる場合がある。
上記のようなことをふまえて、アクイユ矯正歯科クリニックでは抜歯をするかしないかを様々な角度から検討して判断しています。
- 凸凹の量
- 上下顎骨の前後関係
- 側貌との兼ね合い
- 患者様のご希望
- 患者様の年齢(=治療に費やせる時間が長いか短いか)
上記のような観点を総合的に考えて抜歯するか否かを判断しています。
あごは成長と共に大きくなるから、歯も並ぶようになる??
一言で“あご”といっても、矯正治療においては骨格的な“あご”と歯が並ぶ部分の“あご”とを区別して考えます。このうち骨格的な“あご”とは顔の輪郭を形成するような上あごと下あごのことを指します(左写真)。
この骨格的なあごは年齢と共に大きくなります。上あごは小学校低学年を中心に発育のピークを迎え、下あごは少し遅れて思春期の急激に背が伸びる時期とほぼ時を同じくして発育のピークを迎えます。この上あごと下あごの成長時期のズレによって、私たち人間の顔は発育と共に面長になり、私たちは無意識のうちに幼い顔立ちと大人びた顔立ちの認識を行っているのです。
この、骨格的な“あご”の成長が“歯が並ぶ部分のあご”の成長を意味すればよいのですが、実際には歯が並ぶ部分のあごのことは別に考えなければなりません。
上の写真は左から3歳、6歳、9歳、12歳時の上顎の歯列模型です。どんどん顎が大きくなっていますので、子供の頃でこぼこした歯並びであっても大きくなるにしたがってきれいに並びそうにも感じます。確かに顎は大きくなっているのですが、上の写真を良く見ていただくと6歳臼歯が生えるときにはその分だけ後方に、12歳臼歯が生えるときも同様に12歳臼歯分だけ後方に顎が大きくなっています。つまり、歯が並ぶ顎の大きさは、新しく生えてくる永久歯のために大きくはなるけれど、今あるでこぼこを解消するためには大きくならないということなのです。ですから、成長とともに前歯のでこぼこもきれいになるというのは誤解なのです。
治療の目安
- 治療内容
- 矯正装置を通じて歯やアゴの骨に力をかけてゆっくりと動かし、歯並びと噛み合わせを治します。
- 一般的な治療費総額の目安(自費)
- 大人 唇側矯正治療 約850,000円(税込)
- 治療期間・回数
- 矯正 2年前後・1回/月 保定 2年前後・2~4回/年
- リスク、副作用
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- 治療中は歯みがきしにくい箇所ができるため、虫歯や歯周病のリスクが高くなるので、念入りな歯みがきが必要になります。
- 初めて矯正装置を装着した時や調整した後は、疼痛や圧迫感などを感じることがあります。
- 歯並びを整え、咬み合わせを改善するために、やむを得ず健康な歯を抜くことがあります。
- 歯を動かす際に、歯根吸収や歯肉退縮が起こることがあります。
- リテーナー(保定装置)を適切に使用しない場合は、後戻りすることがあります。