上顎前突治療例10(上顎両側第一小臼歯抜歯、唇側矯正装置)
症状・治療方針・治療
初診時年齢:12歳
性別:男性
主訴:出っ歯
症状・治療方針
上顎前歯と下顎前歯が水平的に1㎝以上離れています(水平被蓋=オーバージェットが大きい)。これは上顎歯列が下顎歯列に対して全体的に前方に位置していることに加えて、上顎前歯部には空隙があるので空隙がない場合に比べて上顎前歯が唇側傾斜しているのに対し、下顎前歯部には凸凹(叢生)があるので叢生がない場合に比べて下顎前歯が舌側傾斜していることに起因します。
また、上顎前突症に高頻度で認められる過蓋咬合(咬み合わせが深く下顎の前歯が見えない)でもあり、典型的な上顎前突症といえます。
上下顎の小臼歯が1本対1本で咬み合っています(1歯対1歯咬合)。これは必ずしもダメというわけではありませんが、本症例ではより理想的な1歯の歯に対して2歯が咬合する1歯対2歯咬合を達成することを治療目標としました。
治療は上顎前歯を後方移動するスペースを確保する目的で上顎両側の第一小臼歯を抜歯、下顎は歯列の拡大で叢生改善のスペースを確保することとしました。
上顎に大臼歯の前方移動を抑制するための固定源としてトランスパラタルアーチを装着しました(治療中の上顎咬合面を横切るワイヤーのことです)。上顎大臼歯の前方移動の抑制に加えて上顎大臼歯の廷出を抑制する効果も期待できます(上顎前突症の治療において上顎大臼歯が廷出すると下顎骨の反時計回りの回転をきたし、下顎歯列が後方に移動して上顎前突の治療が難しくなります)。
治療結果
1㎝以上あったオーバージェットは標準的になり、下顎前歯部の叢生も改善しました。正面観から過蓋咬合も改善しています。また、側面観から治療前に1歯対1歯咬合であった臼歯関係が1歯対2歯関係に改善しています。治療難易度としてはそれほど難しい症例ではありません。
治療について補足
本症例で使用したトランスパラタルアーチは大臼歯が前方移動することを防ぐための装置です(加強固定装置といいます)。小臼歯の大きさは7.5㎜前後なので、抜歯スペースは7.5㎜存在することになります。この7.5㎜をどう利用するかが矯正治療の要なのですが、抜歯スペースの半分程度は大臼歯を前方に移動して構わない症例であれば加強固定装置としてトランスパラタルアーチやホールディングアーチ、リンガルアーチなどを使用します。半分以上の前方移動が許容される症例であれば加強固定装置は使用しませんし、大臼歯の前方移動許容量が2㎜以下の症例では歯科矯正用アンカースクリューやヘッドギアなどを使用することになります。
治療の目安
- 主訴
- 出っ歯
- 診断名
- 叢生を伴う骨格性上顎前突症
- 年齢
- 12歳 男性
- 治療に用いた主な装置
- 唇側矯正装置、トランスパラタルアーチ
- 抜歯部位
- 上顎両側第一小臼歯
- 治療期間
- 25か月 / 月に約1回の通院
- 治療費
- 約820,000円(税込)
- リスクと副作用
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- 治療中は歯みがきしにくい箇所ができるため、虫歯や歯周病のリスクが高くなるので、念入りな歯みがきが必要になります。
- 初めて矯正装置を装着した時や調整した後は、疼痛や圧迫感などを感じることがあります。
- 治療当初は装置が舌にあたり、発音のしづらさや食べづらさなど感じることがあります。
- 歯並びを整え、咬み合わせを改善するために、やむを得ず健康な歯を抜くことがあります。
- 歯を動かす際に、歯根吸収や歯肉退縮が起こることがあります。
- 矯正治療は患者様の協力度に左右されることのある治療です。顎間ゴムなどを歯科医師の指示通りに使用しないと期待した治療結果が得られないことがあります。