上顎前突治療例5(舌側矯正装置+歯科矯正用アンカースクリュー、抜歯)
初診時口腔内写真
上顎前突と叢生の合併症です。上顎両側の第一小臼歯を抜歯し、前歯を効果的に後退させるため歯科矯正用アンカースクリューを上顎両側口蓋の大臼歯歯根間に植立することにしました。植立部位は第二小臼歯と第一大臼歯歯根間です。
頬側に比べて口蓋は矯正用アンカースクリューを植立する部位の選択肢が広い(単純に面積比で)のですが、口蓋粘膜は頬側歯肉に比べて厚く、場合によっては肥厚していることもあり、やや慣れが必要です。
実際に経験した例として肥厚した粘膜が8mmに達することもあり、こうなると大手メーカーから販売されている矯正用アンカースクリューの最長径はおそらく10mm(2022年11月現在)ですから骨に達するスクリュー(インプラント体)は2mmということになり、これではほぼ確実に脱落してしまうでしょう。先端の2mmだけで安定した症例を知りません。やはり最低でも4mm、できれば5mm以上骨内に埋入していた方が良いでしょうし、インプラント体の長径比で7割は骨内に存在していてほしいところです。
もっとも矯正用アンカースクリューの臨床的な歴史は浅く、学術的な検討はまだ緒についたばかりではあります。ただ、医療事故の報告もほとんどなく、2013年に健康保険に収載されたことから鑑みても矯正治療における必然性が高く、しかも安全性は極めて高い治療です。
治療途中口腔内写真
(治療開始4か月後)
上顎口蓋側に矯正用のアンカースクリューが植立されています。また、ワイヤーにフックを装着して、そのフックをアンカースクリューから後方に引っ張っています。こうすることで奥歯を前方にずらすことなく前歯を後退させることができます。
治療終了時口腔内写真
(治療開始16か月後)
治療期間は16か月でした。上顎両側の第一小臼歯の2本抜歯の治療ですと、上下の歯の本数が合わないので咬み合う歯が無くなるのではないか?と思われるかもしれませんがそんなことはありません。むしろ下顎の第一小臼歯だけを抜歯したときの方がそういった問題に直面します。
下顎の小臼歯だけを抜歯した場合、上顎第二大臼歯の対合歯が存在しなくなるためで、上顎前突に比べて下顎前突の患者様に外科矯正症例が多いことの一因でもあります。上顎第一小臼歯だけの抜歯は上顎前突の治療では比較的良く選択される抜歯部位です。
治療の目安
- 主訴
- 出っ歯、歯のデコボコ
- 診断名
- 上顎前突
- 年齢
- 17歳 女性
- 治療に用いた主な装置
- リンガルブラケット矯正装置、歯科矯正用アンカースクリュー
- 抜歯部位
- 上顎両側第一小臼歯
- 治療期間
- 16カ月 / 月に約1回の通院
- 治療費
- 約1,300,000円(税込)
- リスクと副作用
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- 治療中は歯みがきしにくい箇所ができるため、虫歯や歯周病のリスクが高くなるので、念入りな歯みがきが必要になります。
- 初めて矯正装置を装着した時や調整した後は、疼痛や圧迫感などを感じることがあります。
- また、治療当初は装置が舌にあたり、発音のしづらさや食べづらさなど感じることがあります。
- 歯並びを整え、咬み合わせを改善するために、やむを得ず健康な歯を抜くことがあります。
- 歯を動かす際に、歯根吸収や歯肉退縮が起こることがあります。
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